展望:2024年は難しい戦略的選択を迫られる年に

2024年は、かつてないほどのプレッシャーが業界を取り巻くのを目の当たりにすることになりそうだ。 大手プラットフォーム上でニュースコンテンツは格下げとなり、更にニュースが読者に届きにくくなるだろう。また、AI検索機能が複雑さを増し、トラフィックをとおした広告収益に依存するサイトはより一層、その影響を感じることになるだろう。サブスクリプション・モデルはより安定的で一般的に堅実とは言えるものの、大幅な割引ならびに解約の影響との長期的な戦いを強いられるだろう。

本記事の執筆中に、ある同僚からタイの独立系ニュースサイトであるココナッツの閉鎖という悲しいニュースが送られてきた。 同社は編集と読者獲得で成果を上げ、会員制モデルを運営していたにもかかわらず、こうした努力が「商業的な成功に結びつかなかった」と言う。 声明の中で同社は、「他の多くの独立系ニュース出版社と同様、最善の努力を尽くしたにも関わらず、持続可能性のあるビジネス運営というのが、信じられないほど実現の難しいものであることに気づかされました」と語った。

持続可能性のあるメディアビジネスの追求において、2024年度は次の4つの側面で、厳しい戦略的な選択を迫られる年になるだろうと予測する:

  • 何にフォーカスするか
  • 何をやめるか
  • どこでコストを削減・統合するか
  • 何に投資するか

フォーカスすべきこととしては、当然のことながら大きなトピックといえばAIであり、業界としてのAIの活用や影響が重要となっている。 FTストラテジーズはこの1年、AI戦略について多くの新聞社・出版社と連携してきた。ニュース業界におけるAIの活用可能性については、こちらの記事を参照いただければと思う。

しかし本記事では、収益の多様化に焦点を当てたいと思う。「 同じドアをノックし続けても、同じ答えしか返ってこない」という古い言い回しがあるが、この言い回しが今日ほどに当てはまったことはこれまでにないだろう。

FTストラテジーズが、News Sustainabilityプロジェクトに際し、Google News Initiativesと共同で行った広範な調査によると、多様な収益源を持つ新聞社・出版社は、より安定したビジネス基盤を築いていることが明らかとなった。 全収益の15%以上を占める収益源を4つ以上を持つ新聞社・出版社は、持続可能性の平均スコアが有意に高く、平均利益率は6%と、そうでない新聞社・出版社の1%を大きく上回る結果となった。

社として何に重点を置くかという選択のためには、慎重な計画ならびに検証が必要である。その成功のために非常に重要なのが、編集部門からプロダクト部門や各ビジネス部門に至るまで、組織全体で解を見つけるということにある。

また同調査では、主な収益源が4つを超えると平均利益率が下がる傾向にあることもわかった。これは、多すぎる事業の実施は、長期的には必ずしも企業に好影響をもたらすわけではないということを示唆する。

新聞社・出版社にとっての最大の課題の一つは、何をやめるかを決めることだろう。この選択は、戦略的な社内調整やリソースなどの集中を支えるだけでなく、コスト削減や事業などの統合の促進にもつながる重要なアクションである。 そしてもちろん、「言うは易く行うは難し」でもあるだろう。特に、エゴやノスタルジー、感情によって、適切な判断ができなくなる場合はなおさらである。

伝統ある新聞社・出版社が印刷事業において損益分岐点または黒字化を目指し、紙の出版物から、より良いマージンで収益の上がるデジタルプロダクトやサービスへと戦略的に投資を振り向けるにつれ、特に印刷コストがより強くクローズアップされるようになると私は予測している。

莫大な経費を背負いながら成長中の新たな収益源に投資することは、非常に重い十字架を背負うことであり、減退しつつある紙の出版物の存続を主要な投資とするのは、たとえそれがどんなに愛されているものであっても、ビジネス成長の観点で矛盾をきたす。

FTストラテジーズは今年、ビジネス分析、印刷プロセスの統合、事業コスト最適化のプロジェクトに注力している。フィナンシャル・タイムズ自体が、デジタル・トランスフォーメーションにおける模範的な印刷プロセス管理の素晴らしい事例だろう。詳細についてご興味あれば、是非、FTストラテジーズにご連絡いただければと思う。

最後のポイントになるが、匿名ユーザーのトラフィックに依存する時代は、かつては永遠に続くかのように思われたが、遂に終わりに近づいているようである (新聞社・出版社にとっての昨今の困難については、Lars K JensenLinkedInの記事を参照されたい。昨今の課題をまとめた記事としては、これに勝るものはないと思われる)。長期的な利益という観点からみると、より良い顧客の獲得とデータ管理への効果的な投資の価値が更に高くなるだろう。

読者との関係を中途半端にすることは、ビジネスにとって完全に誤りであろうということを、統計が物語っている。 上述のFTストラテジーズの調査によると、赤字の新聞社・出版社のうち、57%が最大または二番目に大きなトラフィック元として、ニュースアグリゲーターを挙げた。一方、 最も利益を上げている新聞社・出版社のうち、同じ回答を選んだ企業はわずか9%だった。

新聞社・出版社にとっての解決策は、匿名のブラウザーやトラフィックの買収というコストのかかる戦略から、各種サービスへの登録やアカウント作成をとおして一人ひとりの読者を知り、それぞれに質の高い体験を提供するべく、戦略的な軸足を移すことにあるだろう。

読者との直接的な関係は収益性を高めることも明らかになっている。平均利益率が10%以上の「非常に収益性の高い」新聞社・出版社の68%は、全読者の7.5%以上がログイン読者(会員登録をしており、ログインをしている読者)である。 一方、赤字の新聞社・出版社の63%は、ログイン読者率が0~4.9%だった。 FTストラテジーズの持つデータと過去の事例をみると、読者の一次情報の所有ならびにその活用は、読者のロイヤルティや読者収益、更には広告CPM の向上を促進するということがわかっている。

2024年度は多くの面で厳しい年になると予想されるが、強力なリーダーシップと慎重な意思決定が、嵐を乗り切る報道機関の助けとなるだろう。

FTストラテジーズのウェブサイトでは、ニュースやメディアビジネス成長に関する様々なインサイトを紹介しているため、ぜひ参照いただきたい。

著者について

ディレクター リサ・マックリード
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リサ・マックリード

FTストラテジーズ、ディレクター。 紙媒体からデジタル媒体への変革において25年以上の経験を有し、特にフィナンシャル・タイムズではアシスタント・エディター、マネージング・エディター、アソシエイト・エディター、FT.comの運営責任者を歴任し、編集部門のオペレーションを指揮してきた。 南アフリカ最大の出版社であるティソ・ブラックスター(現アリーナ・ホールディングス)とナスパースの24.comでは、グループ全体のデジタル・トランスフォーメーションのプロジェクトを指揮。 世界ニュース出版社協会(World Association of News Publishers)の元副会長、Women in Newsのアドバイザー兼コーチ、世界編集者フォーラム(World Editors Forum)の理事、ランカシャー大学(University of Lancashire)のリーダー・イン・レジデンス、ジャーナリズム・イノベーション・リーダーズ・ファカルティ(Journalism Innovation Leaders faculty)のメンターを務める。

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